2018年03月14日

敬意のこもったコミュニケーションがアイデアと行動を生み出す!

敬意のこもったコミュニケーションが
アイデアと行動を生み出す!
〜 ジョン・マーフィー博士の通訳をして学んだこと 〜

青木 安輝

3月最初の週末にBTNJ(ブリーフセラピー・ネットワーク・ジャパン)主催のワークショップでジョン・マーフィー博士の通訳をJ-SOL以来コンビで通訳することが多くなった西田博明さんとご一緒させていただきました。「子供と青年、学校での難問への解決志向アプローチ」と題されたWSの副題は「尊厳をもって変化することを支援する実践的技法」でした。

マーフィー博士のワークショップ
「尊厳をもって」というと少し大仰に聞こえるかもしれませんが、マーフィー博士のアプローチは、まさに相手の尊厳を大切にする深い配慮に満ちたもので、しかもとてもシンプルでした。楽しく学びの多い2日間を過ごすことができたので、その重要ポイントを皆さんと共有したいと思います。子供向けカウンセリング領域のトピックですが、一般的なコミュニケーションにも十分あてはまる内容です。

アーカンソー中央大学で心理学とカウンセリングを教えているマーフィー博士は子供向けのカウンセリングや学校における問題解決を得意分野としています。理論背景や影響を受けた人としてSF以外にも、ミルトン・エリクソン、ブリーフ戦略セラピー、社会構成主義、ポジティブ心理学その他様々な要素を上げておられますが、解決志向的要素が重要な位置をしめていることは確かです。また、マーフィー博士の温厚な人柄の中にすべてがほどよく融合していて、大変シンプルな形で提示された内容なので、理論や技法の来歴はあくまでも背景であって、実践に役立つ内容自体が主であることが印象に残りました。

ここで紹介したいポイントは以下の3点です:

  1. まず支援する側とされる側の関係性を築くことを大切にする。
    (話し合いができる相手だと思われなければ、表面的な会話をするだけ。)
  2. 本人がもともと持っているもの、自分で考えたことを活かす。
    (支援者側の理論や解決アイデアを押し付けない。)
  3. 「うまくいっていること」の上に小さなことを積み重ねていく。
    (問題の渦中でもうまくいっている「例外」は必ずある!)

とてもベーシックなことばかりですが、マーフィー博士の丁寧な語り口と効果的なセッション動画(一つひとつはたった数秒から数十秒程度の短いもの)の活用で、あらためて基本に忠実って大事だなあと感銘を受けました。

では、一つひとつを詳しく振り返ってみます。

1, まず支援する側とされる側の関係性を築くことを大切にする。
(話し合いができる相手だと思われなければ、表面的な会話をするだけになる。)

Lambert & Oglesの有名な研究に「効果的なセラピーにおける変化の中核となる共通要因(Common Factors)」があります。これはうまくいったセラピーにおいては何がその要因となったかの割合を調べたものです。その内訳は、クライアント要因が40%、セラピストとの関係性要因が30%、希望(うまくいくだろうと思える)要因が15%、理論・技法要因が15%です。これ以外にも共通要因の研究はいくつかありますが、マーフィー博士はこのバージョンが技法を活用する際のガイドラインとしてフィットしているので、これをよく使うそうです。

もっとも大きな割合を占める「クライアント要因 (40%)」とは、クライアントがもともともっているもの(内的リソースや本人の環境中に存在する様々な資源をすべて含みます)のことです。端的に言えば、本人がもっているものを活かそうとするときにカウンセリングの効果は最大になるということです。これは重要ですが、2番のところで詳しく扱うので、まず「セラピストとの関係性要因 (30%)」についての話をしましょう。支援者はクライアント要因を大切にしようとするならば、本人がもともと持っている有用な資源に気づくように、意識の焦点を自らが持つ、あるいは自分の周囲に存在する有用なものに向けるよう誘導しようと思います。しかし、相手が「この人の言うことなら聞いても良いな」と思っていなければ、どんなに正しいことを伝えようが、クライアントの意識に変化は起こせません。

もっとも邪魔になるのが、上目目線で「私の言うことをききなさい。あなたはわかっていないのだから」という意味あいで伝わってしまうメッセージ(言語or非言語)です。これでは自分には価値がないと扱われている感覚になってしまいます。「一方的に何かを言われる」関係になりそうだと思えば、誰でも耳を閉ざしたくなります。逆に自分のことを純粋に知ろうとしてくれていると相手が思えば、信頼感が生まれます。マーフィー博士はこれを小さなことを丁寧に積み上げていくやり方で達成します。

小さな子を相手にするような面談でも、最初に「これからね、君が今困っていることに関してうまくやれるように私が何か助けられるといいなと思っているんだけど、そのためにはまず君のことを知りたいので、教えてもらえるかい?」と尋ねます。文化人類学者の態度を見習ってくださいと博士は言います。彼らは未知の異文化環境でフィールドワークをする際に、全てのことを自分の側の尺度で見ることを放棄します。そして、現地の人にはどのような意味があるのか、背景にどんな考え方があるのかを知ろうとするために、自分を白紙の状態にします。自分の尺度で現地人を扱えば、下手をすると侵略者と見做されます。同じように、支援者も相手のことをわかったつもりにならずに、「あなたのことを教えてください」という学ぶ態度を取ることが大事です。

博士は10秒程度の短い動画で、小さな子供相手の面談冒頭で「あなたのことを支援するために、あなたのことを教えてもらいたい」という意味の言葉をかける場面を見せてくれました。それに対して子供がうなづきます。何げないやり取りですが、博士の声のトーンや聞き方が敬意を感じさせてくれるのか、子供がうなづくときに安心して息が深くなる様子が見てとれます。

博士がもう一つ面談冒頭場面で相手に許可を求める場面を見せてくれました。20代の若者相手の面談で、「ノート取ってもいいかな?」と尋ねるほんの5秒程度の動画です。相手は「ああ、もちろんいいよ。」という雰囲気で頭を縦に振ります。ここでもやはり相手のガードが下がっていく様子が見てとれます。

こんな小さなことなんですが、許可を求めるという行為は相手を尊重しているというメッセージです。それがルーティーンとして響いてしまっては効果がないでしょうが、言葉通り本当に相手に許可を求める雰囲気で聞かれれば、支援者が上ではなく、同等の立場にたっているということを伝えるメッセージになります。そして、「この人とはわかり合う話ができそう」という安心感が生まれます。

「心理系のセミナーで講師が動画を見せるというと、達人の素晴らしい面談でその技が冴えわたる場面を見本として見せてもらうというイメージがあるでしょうけど、実はこんな小さなシンプルなことの積み重ねを大事にすることが重要なんですよ」と博士が説明するのが新鮮で、腑に落ちました。

そして、博士はときどき自分のマイクを指で叩いて、「ドンドン、ドンドン」という音を発生させてこう言います。「これはクライアントの心拍です。これを感じ取ること、そしてそれを活かす方向で会話を進めることが重要です。相手の主体性が活かされることがもっとも大事なのです。」相手の心拍を感じるというのは、文字通りというよりはメタファーですが、とても臨場感のある例え方でした。

2, 本人がもともと持っているもの、自分で考えたことを活かす。
(支援者側の理論や解決アイデアを押し付けない。)

博士の著書「学校で役立つブリーフセラピー」(金剛出版)にも収録されているエピソードですが、モリーという10才の女の子との面談で、彼女が「クライアント本人の考えを活かす」ことの重要性を素晴らしい言葉で表現しているので、そのエピソードを紹介します。

モリーは両親が離婚して情緒不安定でした。既にグループ面談を受けたり、複数のセラピストの個人面談を受けた後でしたが、それらが役に立たず、悪夢にうなされることが多い状態でした。母親のベッドで寝ているので、「分離不安」というレッテルが貼られて、薬が処方されてもいました。それまでどのカウンセラーもモリー自身が問題(とその解決)をどう考えているのかを尋ねることはなく、ただ査定され、問題が類型化され、介入法が処方されただけでした。しかし、問題はまったく解決しなかったのです。

そして、母親とある新しいカウンセラーを訪ねたところ、初回面接で「モリー自身は問題解決にどんなことが役に立ちそうだと思うか」を尋ねられました。モリーは今まで意見を聞かれたことがなかったのでびっくりしましたが、「(悪夢や不安を寄せ付けないように)ぬいぐるみや枕でベッドにバリケードを作ったらどうかしら」と言ってみました。そしてその通りに実行すると、2回目の面接では成果があったことが報告されたのです。

そして3回目の面談ではもう自分の部屋で眠れるようになったことを喜んで報告するとともに、以下のような言葉を言い放ちました:

「カウンセラーの人たちってわかってないのよ。(クライアントにも)自分の解決法があるのよ。でもカウンセラーは言うの。『これを試してみましょう。次はあれもね』と。でも全然助けにはなってないの。『本当はそうしたくないんだけどなあ』という感じになるのよ。(中略)セラピストの人たちに言いたいのは、私たちは答をもっているということ。私たちは答を前にひっぱり出すのを手伝ってくれる人が欲しいだけなのよ。答は屋根裏かどこかに入ってしまってるんだわ。人にどうしたいかを尋ねた方がずっといいわ。そうすれば、どうしたらいいかを、その人はしゃべりたがるもの。ただ、それが役に立つかわからなくて、試してみようとしたがらないだけなのよ。」 (「学校で役立つブリーフセラピー」より抜粋)

マーフィー博士は、モリーがこの言葉を小気味良くしゃべる動画を見せながら、「もうこれ以上うまくポイントをついた言葉は見当たりません。この10才の子は私たち支援者に必要な教訓を見事にぴったりな言葉で伝えてくれています」と説明しました。

確かに、色々な場面で人に助言しようとするときに、まず本人の考えも聞かずにアドバイスしてしまうと、“いいアイデアなはず”なのになぜか「だけどねぇ・・・」とそれではダメな理由が返ってきてしまうことってよく経験しますよね。フィンランドのSF伝道師ベン・ファーマンも、NIHという略語をよく使います。Not invented here.の略で、直訳すれば「ここで発明されたことではない」ですが、他所からもってきたものは受け入れられにくいという意味です。逆に、「あなたのおっしゃる通りに、・・・をすれば良いのでしょうね」という言い方をすると、多少こちらの意見を混ぜても相手にとって受け入れやすくなるというテクニックとして、ベンはジョークのように伝えてもいます(笑)。

モリーが動画の中で誇らしげに、「私が自分で考えたアイデアでうまくいったの!」という力強いセリフを聴くと、そういうのを引き出すお手伝いをしたくなります。

3, 「うまくいっていること」の上に小さなことを積み重ねていく。
(問題の渦中でもうまくいっている「例外」は必ずある!)

このテーマで印象に残ったことが2つあります。一つは、漫画である部屋の様子を見せて、良いところとダメなところをリストアップする課題。この漫画では、きちんと片付けられていない部屋で母親と思われる女性が酒のグラスを片手に行儀悪い姿勢でダラっとソファに寝そべっていて、子供が勝手なことをしていたりします。これはもちろんダメなところを見るとらえ方です。しかし、よく見ると、家具類はちゃんとそろっていたり、食べるものは用意されていたり、いろいろ良いところも見つかるのです。マーフィー博士はこう言います。「人は誰でも問題によって強いストレスにさらされていると、視野狭窄に陥り、悪いところしか見えなくなります。私たちの仕事は、そんな中でも既に存在する良いところも見えるように視野を広げるお手伝いをすることです。」

「SFアーティストクラブ」のメンバーで大分で活動をしている中村亜紀子さんは、「プラスの眼鏡」をかけてみようというコンセプトを地元の学校で伝える活動をしていて、中学生たちが驚くほど新鮮な捉え方をすることに驚くそうです。問題の渦中にいるときは、誰でも良いところが見えにくくなりますが、普段から「プラスの眼鏡」をかける練習をしていると、いざというときに役に立ちそうですよね。中村さんは現在「プラスの眼鏡」研修で色々なところから引っ張りダコだそうです。

もう一つ印象に残ったのは、「例外ビデオ」をつくる「セルフ・モデリング」という手法。ある子どもの問題行動ではなく良い例外行動を増やしたいという場合:

  1. これから増やしたい(つまり既に時々は実行することがある)行動を特定する。
  2. その子が望まれる行動をとっているところをビデオに撮る。自然にとっている行動が観察できそうなら、待っていてそれを撮れば良いし、シナリオを打ち合わせた上で、ある意味“つくりごと”として撮るのもあり。
  3. いくつかの違った場面でその子が望む行動をとっているところだけを編集して1〜3分程度の短い「大ヒットビデオ」を作る。
  4. 2週間の間、1日おきにその子に動画を見せる。

ダウン症のお子さんに対してこの手法を使ったところ、普通だとできないと思われていた望ましい行動がグンと増えたという事例を、やはり動画で見せてもらいました。素晴らしいです!問題を分析するのではなく、既にある良いところが意識にのぼるようにする回数を増やすことでその行動が増える。こういう回路をつくる方法は他にもいろいろあり得ると思います。

私の知り合いでゴルフが短期間で上達した(10ラウンド程度しかしていないのにスコアが90を切った!)人がいて、どうやったのかを聞いてみました。本人曰く、「練習や実戦ラウンドの後に、家に帰ってお風呂に入るときにさ、その日の良かったショットだけを思い浮かべるんだよ。あとは全部忘れる!それだけさ。」もちろん才能もあったのでしょうが、示唆に富む話です。

今回のレポートは以上です。マーフィー博士は "What's Right With You" の著者バリー・ダンカンさんとも親しくて、彼のチームが開発したセッション評価尺度(面談終了時にクライアントにしてもらうスケーリング)や効果評価尺度(前回面談のあとどのような変化があったかのスケーリング)を大切にすることで、クライアントからのフィードバックを頼りに相手に合った対応を調整し続けることの重要性も強調していました。それはまた別の機会にレポートさせていただきます。

今回の通訳仕事を通じて不思議に思ったのは、マーフィー博士の話す内容はコンテンツとしては僕にとって目新しいものはあまりなく「ああ、知ってる」というものばかりなのに、なぜか新鮮味がありインスパイアされるということでした。きっとそれを単に知っている人ではなくて、“それを生きている”人として話をするからなんだと思います。自分もそうありたいものだと思いました。

<歌のおまけ>
歌のおまけ
実はジョン(ここからなぜかファーストネーム・笑)と僕は音楽の趣味が一致していることが判明!六本木の洋楽専門カラオケBAR(なんと泊まっていたホテルの三軒となり!)で前夜に大盛り上がりしました。 ジョンは旅行用のミニギター(Washburn "Rover" travel guitar)を持参したくらい音楽好きで、フェイスブックには音楽専用のアカウントも持っています。残念なことに懇親会場は演奏禁止だったので、受講者の皆さんからワークショップの最後に何か演奏をとリクエストがありました。ジョンは子供たちへの支援に関するセミナーだったからCSN&Yの"Teach Your Children"を一緒にやろうと僕を誘ってくれて、ワークショップの最後に二人でハモりました。休憩中に10分ほど練習しただけなので、粗い感じではありますが、よかったら聞いてください♪
SFアカデミア 青木安輝
posted by 株式会社ソリューションフォーカス at 22:17| Comment(0) | TrackBack(0) | セミナー/ワークショップ レポート
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